[質問者]

山岸さんの研究されていたがん治療用の無線式発光デバイスは薄いナノシートで覆われているため、腫瘍部分に直接シールのように貼り付けることができます。それによって弱い光を長時間、患部に当て続けることができるようになるため、患者さんへの負担がかかりにくいということでした。

このデバイスをシールのように貼り付けるのに工夫が必要だったとのことでしたが、どういうことなのでしょうか？

[山岸さん]

はい。ナノシートはそのままでは体内の「ぬれた」臓器に貼り付いてくれないんです。

セロハンテープなどを想像してもらえるとわかりやすいのですが、かわいたところにはくっつきますけれど、濡れているところだと貼り付きませんよね。

ナノシートもそれと同じなんです。体内の臓器や組織表面は基本的にぬれているので、貼り付きづらいです。もし縫い付けたとしても、腸など動く臓器ならすぐにはがれてしまいますし、脳のように非常に柔らかくて、重要な神経や血管がたくさん通っている組織にはそもそも縫い付けるという方法が適用できません。

そこで、ムール貝などの貝に着目しました。

[質問者]

えっ、貝ですか？

[山岸さん]

そう、貝です(笑)

貝はぬれていてもしっかりと岩や船底などに貼り付くことができますよね。

あれは接着タンパク質というものを自らが放出しているからなんです。

そこで私たちは接着タンパク質と同じような化学構造をもった、人工的につくられた物質（生体模倣型接着分子）をナノシートの表面にコーティングしました。

これによって無事ナノシートは体内のぬれた臓器にも貼り付いてくれるようになりました。

2019.04